クライアントは『最高の通訳』なんて求めていない
『最高の通訳者になりたい』 なんて思っていませんか?
通訳に限らず、高度な技術職(通訳はサービス業というのがカセツウの考え方ですが、もちろん技術=通訳スキルも必要です)に就く者であれば、やっぱり 『高い技術を身に着けたい』 と思うもの。その高い技術でお役に立ちたい、『最高の通訳をしたい』 と思うのが自然です。
ですが…
あえて訊きます。
その技術、お客様が求めてますか?と。
お客様は 『最高の通訳』 をしてほしいのでしょうか?
もちろん、お客様によっては 『最高の通訳』 を求めている方もいます。いますが…
ある美容院のお話をさせてください。
美容院、皆さんもよく利用するのではないでしょうか。
もちろん人によると思いますが、ご指名の美容師はいませんか?
もしいるとしたら、その指名している美容師さんの良いところはどこでしょうか。『誰よりも高い技術』 を理由に選んでいますか?きっとそんなことはないと思います。技術はOK というレベル、または 『なんだか自分にあう感じ』 であればそれ以上を求めていることはないのでは?『もっと技術が高い美容師を』 と美容院を探し回る人はいないと思います。
そして、もしご指名の美容師がいない場合、、、
それもやはり、『技術がすべてではない』 証明になります。
酒井も 『なんとなくご指名』 の美容師はいますが、技術はともかく 『自分が緊張しない相手』 という理由で選んでいます笑。
実際、美容院で人気のある美容師は、美容師仲間でもダントツのスキルを持っていて一目置かれるような美容師…
ではなく、スキルは並か普通くらいだそうです。でも、人気がある。イケメンなわけでもない。でも、人気がある。
彼の人気の秘密を確認していくと、秘密は彼のコミュニケーションにあったそうです。
お客様がいらしたら、とにかく徹底的にヘアスタイルの好みやイメージを聴く。要望を聞く。そして、必要であればスケッチブックにイメージを描いてみせ、『こんなイメージ?』 と確認するそうです。だからお客様も 『仕上がりがイメージの通り!』 と喜んでくれるそうです。そりゃそうですよね。
クライアントは『最高の通訳』なんて求めていない
クライアントが求めているのは 『自分の要望を適えてくれる』 通訳です。『最高の通訳』 ではありません。要望は、商談の成功かもしれませんし、ゲストの満足やおもてなしかもしれません。その都度変わりますし、商談を成功させるために必要なのは 『最高の通訳』 ではなく、『コミュニケーションを円滑にしてくれる通訳』 かもしれません。ゲストに満足してもらったり楽しんでもらうために必要なのは 『最高の通訳』 ではなく 『笑顔や機転』 かもしれません。
スピーカーの言葉をひとつも漏らさず高いレベルでスムーズに訳出した、ただし笑顔ひとつなく…
これって、クライアントの満足に繋がりそうでしょうか。
そして、もうひとつ。
クライアントが求めているのは 『最高の通訳』 ではなく…
最高と 『思える』 通訳であることも付け加えておきます。
あなたが 『最高の通訳』 を提供しているとしても、それがクライアントに伝わっていなければ意味がありません。例えば、コーヒーに拘って最高品質の豆しか使わず、一杯一杯を丁寧に10分かけて淹れている喫茶店があるとして、、、それをお店のどこにも書かずに出していたとしたら、その喫茶店は 『コーヒー一杯出てくるのに10分かかる』 だけの、誰も行かないお店になるでしょう。あなたもそんな喫茶店には行かないはずです。
でもこんなお店があったら、あなたはきっと 『せっかく最高のコーヒーを淹れているのにもったいない!』 と思うんじゃないでしょうか。そう思うのは、あなたがこのお店が最高のコーヒーを淹れていることを 『すでに知っているから』 です。でなければ、わざわざ最高のコーヒーを淹れているかを確認に行くこともしないでしょう。
あなたのクライアントも同じです。あなたがいかに最高の通訳を提供しているとしても、クライアントがわざわざあなたの通訳が最高かどうかなんて調べたり理解しようとしてくれるなんてことはありません。だからあなたが伝える必要があります。
こう考えると、もしあなたが 『せっかく磨いてきたスキルが報われない』 と感じているのだとすれば…
課題はこれ以上スキルを磨くことではなく、『あなたの通訳がなぜクライアントにとって最高か』 を伝えることです。
そのために、何をしたらいいのか。
是非考えてみてください。