通訳者として活躍していくために必要な3つの要素 – 2

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便利で効果が出やすいからこそ注意するべき 『ツールセット』 の使い方

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ツールを使うと、基本的にあっという間に効果が出ます。というよりも、『すぐに効果が出る』 のが 『良いツール』 の条件でもあります。せっかくお金を出して買ってきたものが、『大丈夫です、1年後には効果が出ます』 って言われても、ちょっとガックリしますよね。だから、ツールは便利で即効性があっていい、というか、そうあるべきです。

 

じゃあ、ツールが良ければそれでいいのか?

先ほど車を例にしてお伝えしましたが、いかにツールが高性能でも、使い手が拙ければ本当の性能を発揮することはできません。車の場合は交通事故を起こして使い手(運転手)がケガをすることになりますが、車以外でもやはり同様です。使い手のレベルにあわないツールを使おうとしても、ケガをします。

例えば、通訳者にとってのツール。
ここでは、通訳者としての名刺や通訳実績表を例に出してみます。

名刺や通訳実績表には、いくらでも工夫の余地があります。実際にカセツウの講座でも 『仕事に繋がる名刺の作り方講座』 や 『通訳コーディネータが喜ぶ通訳実績表の作り方講座』 をご提供しています。それはやっぱり、どちらも通訳者として活躍するためにとても重要だと認識しているからです。しかし…

ご立派な名刺や通訳実績表が出来上がったとして、使い手であるあなたのスキルがそのご立派な名刺や実績表にみあわなかったら、どうなるでしょうか?もしかすると、最初はその名刺や実績表のおかげで、案件の照会が貰えるかもしれません。

クライアントは、『この通訳者なら、大丈夫だろう、この依頼をこなしてくれるだろう』 と期待してあなたに依頼するわけですが…
現場に出て、その案件に対応できるほどのスキルがなかったら…ゾッとしますよね。二度と仕事の声もかからなくなるでしょう。これが、通訳者にとって 『ツールでケガをする』 という状態です。

良いツールを手に入れたら、それを使いたくなるのが人情というもの。しかし、ツールはどこまでいっても 『使うもの』 であって、『頼るもの』 ではないことを頭に叩き込んでおかないと、知らず知らず、ツールに頼って本当に大切なことを忘れてしまうリスクがあります。

本当に大切なこと…それが、ツールセットを使いこなすためのスキルセット、そして、更にその土台になるマインドセットです。

では次に、スキルセットについて説明していきます。

 

 

通訳スキルだけではない 『スキルセット』 の考え方

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通訳者にとって通訳スキルの向上は永遠の課題。「これで十分」なんてことはありません。勉強を始めたばかりの方ならその方なりの課題や目標がありますし、10年選手の通訳者にも、20年選手の通訳者にも、やはりそれぞれのステージでの「もっと通訳がうまくなりたい」という課題や目標があります。逆に、この気持ちをなくして「もうこのくらいでいいだろう」と考えてしまうようでは、すぐに他の通訳者に追い抜かれたり、その姿勢がクライアントに見えてしまって仕事が来なくなったりします(そんな方、あまり見たことありませんが)。

 

「スキルアップ」は確かに重要だけど…「スキルセット」は?

何度も言います。通訳者にとって通訳スキルは非常に重要です。そしてそれは、皆さん自身が身をもって感じている、実感していることのはずです。だから多くの方はこう思います。

「もっと通訳スキルを磨かなくては…」

その発想自体は間違いではないのですが、実はここに、多くの通訳者が陥っている「思考の罠」があります。「通訳スキル」を重視するあまりに見落としていることがあります。それが、「必要なのは通訳スキルだけではない」ということ。いくつかあるからこその「スキルセット」の考え方です。

前のページでも、通訳者にとって必要なスキルセットとしていくつかの例を出しました。

  • クライアントやパートナー通訳者との関係を作る対人関係スキル
    (コミュニケーションスキル、ソーシャルスキル)
  • 仕事を獲得するための営業スキル、セールススキル、マーケティングスキル
  • SNSやブログ、HPなどのメディアを使いこなす情報発信スキル
  • iPhone、スマホ、アプリその他ガジェット類を効率的・効果的に使いこなすITスキル

すこし考えただけでもこれだけが出てきます。そして、あなたはこれらをすべて「通訳者に必要なスキルセット」として考えたことはあるでしょうか?さらに、それぞれを通訳スキルと同じように「磨こう」と思ったことは?

 

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もちろん、このカセツウの考え方を読んで「いや、そんなものはどうでもいい、重要なのは通訳スキルなんだ」と考える方もいらっしゃるかもしれません。でも、、、本当に上に書いたようなスキルが、通訳者には不要なスキルだと、特に個人事業主として活躍したいと考えている通訳者にとってどうでもいいスキルだと、断言できますか?

あなたももしかすると、思われたことがあるんじゃないでしょうか。

  • 通訳コーディネータとどうやって関係を作ればいいんだろう
  • なんであの通訳者が指名されるんだろう
  • 仕事が欲しいけどどうアプローチすればいいのかわからない
  • ブログやホームページなどメディアを持った方がいいとは思うけどニガテ、面倒くさそう
  • 使いこなせば便利そうなツールやアプリがあるのは知っているけど使いこなせない

真剣に考えてください。これらの「スキルセット」を揃えている通訳者と、「通訳スキル」だけを磨き続ける通訳者と、どちらが有利だと思いますか?もちろん、「スキルセット」をそろえている通訳者の方が有利です。

そしてすでに書いたように、スキルセットは身に着けるにはある程度の時間が必要です。スキルの習得には5段階あると言われています。

 

スキル習得の5段階

 

意識

 

この5段階を経て、人はスキルを習得していきます。この段階を一足飛びにして習得することはできません。コツコツと積み上げることで、だんだんと「無意識でもできる」状態に近づいていきます。だからスキルセットはツールセットに比べて効果を実感するまでに時間が必要です。(…そして多くの方がここで脱落するわけですが)

いま、あなたに必要なスキルセットが何か、把握していますか?

…もしまだはっきりしていない(レベル1の無意識的無能)なら、いちはやく「必要なスキルセット」を理解して(レベル2の意識的無能)、できるだけ早く身に着ける(レベル3の意識的有能)ことが重要だということです。習得に時間がかかるのであれば、早く始めた方が有利なのは当然ですね。

そして、ツールセット、スキルセットと説明してきましたが、最後にそのどれよりも重要で、そして時間がかかるマインドセットについて説明していきます…

 

”失敗”がなくなるマインドセットの育て方

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失敗がなくなる…。

と言われたら、どう思いますか?あなたの行動や、そして人生はどう変わりそうでしょうか?

何をしても失敗しない、何をしても成功だ、何が起きても問題ない、どう転んでも喜べる、すべての結果が「思い通り」だ…

きっといろんな不安や恐怖がなくなって(もしくは小さくなって)、「やろうかな、やりたいな、やってみたいな」と思ったことにどんどんチャレンジして、取り組むようになるんじゃないでしょうか。だって”失敗”することなんてないんだから。

え?怪しいって?笑
そんなことあるわけないって?

でも、望ましいマインドセットを身に着けることで、こんなことが本当に起きるんですよ、と言われたら…?

「そんなことが本当にあるんだったら、身に着けたい」とは思いませんか?

マインドセットって、なに?

マインドセットとは、経験、教育、先入観などから形成される思考様式、心理状態。暗黙の了解事項、思い込み(パラダイム)、価値観、信念などがこれに含まれる。
マインドセットという言い方は、人の意識や心理状態は一面的なとらえ方はできず、多面的に見てセットしたものがマインドの全体像を表しているということから来ている。 (出典:グロービス、MBA経営辞書)

 

調べてみるといろんな説明が出ると思いますが、カセツウ的には「ものの考え方、そして見方、捉え方」だと説明しています。もっと端的に言えば「解釈のしかた」です。では、それらが変わると、なぜ”失敗”がなくなってしまうのか。

例えば、通訳エージェントから案件の照会があり、仮押さえを依頼されたとします。確定の連絡がないまま業務日が近づき、そろそろ確認しないと、と思った矢先に連絡があり、仮押さえがリリース… そして、その仮押さえ→リリースのパターンが何度も繰り返される…

そんな状況なら、あなたはどう感じ、どう思いますか?多くの通訳者が、不安になったり、落ち込んだりするのではないでしょうか。中には通訳エージェントに対して「不誠実だ!」と怒りを覚える通訳者もいるかもしれません。

 

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この時に、成功者のマインドセットが身に着いていれば、どう考えるか。うまくいくマインドセットが身に着いていれば、不安になったり落ち込んだり、ましてや怒ったりしても状況は改善しないことを理解して、「なにができるか、どう振る舞うべきか」にフォーカスして考えることができます。同じ事象(仮押さえ→リリース)に対して、マインドセットの違いで感じ方がまったく変わってくるということです。

「なんでこんなにリリースばかり…嫌われてるのかな…スキルが足りないのかな…レートが高いのかな…”やっぱり私はダメなんだ”」と考えることもできれば、「なんでこんなにリリースばかり…どこが足りないんだろう、どうすれば次から依頼が確定されるんだろう、直にコーディネータに相談してみようか」と考えることもできます。どちらも選べるんですが… どちらの考え方が、成功に近付きそうでしょうか。

コップに半分、水が入っていたら、どう考えるか。解釈について説明する際によく挙げられる例です。「半分”しかない”」と考えるか、「まだ半分”も”ある」と考えるか。クライアントに断れたら、どう考えるか。仕事がない時期が続いたら、どう考えるか。すべて、マインドセットで解釈が変わります。

すべては解釈に過ぎない

すべての出来事は、ただの「出来事・事象」に過ぎません。でも、人はついその「出来事・事象」に「意味づけ」をしてしまいます。単なる「出来事・事象」にしか過ぎないのに。通訳の依頼が来ないのも、リリースが繰り返されるのも、ただの事象です。誰かがあなたを嫌っているわけでも、「あなたはダメだ」と言っているわけでもありません。単に「依頼されなかった」ただそれだけです。それだけですが… それに意味づけをしているのは、あなたのマインドセットです。

あなたも、発明王エジソンが電球の実用化を進める中で2万回の実験をした話を耳にしたことがあるかもしれません。その2万回の実験について、エジソンはこう解釈したと言われています。「わたしは今までに一度も失敗をしたことがない。今まで二万回、電球が光らないという”発見”をしたのだ」

 

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だとすると、あらゆる事象の捉え方、解釈を「成功に近付く解釈」にできたとしたら、”失敗”はなくなる… そうは思いませんか?

これを、「ヘリクツだ」と言うこともできます。でも、それ自体があなたのいまのマインドセットが導いている解釈に過ぎません。「確かに」と思い、「じゃあそれを身に着けるように努力してみよう」というのが、ここでいう「成功に近付くマインドセット」です。

だからこそ、成功するマインドセットが身に着けば、これまでに説明してきたスキルセットやツールセットを正しく身に着けることができるようになり、スキルセットやツールセットの差をひっくり返すこともできるようになる、スキルやツールで敵わない相手にも、マインドセットで先んじることができます。ただ…何度も言っているように…

このマインドセットこそ、もっとも重要で、身に着けるのに最も時間や労力がかかるんです…

 

→ 成功するマインドセットを身に着けるには

補足:「成功するマインドセット」は「ポジティブ思考」や「楽観的に考える」こととはまったく違うものです。根拠のない楽観視や、無理やり心を抑え込んだポジティブ思考は、むしろ成長を妨げ、ひどいときには心を壊します。無理に「ポジティブであろう、あるべきだ」とする必要はまったくありませんし、危険です。まずは”事象”を”事象”として、”事実”は”事実”として捉えることが大切です。